.

マーシャル諸島のDAO法について

Cover Image for マーシャル諸島のDAO法について
Masayuki Tani

マーシャル諸島の概要

マーシャル諸島共和国は、日本、ニュージーランド、ハワイのちょうど中間に位置するミクロネシアの島です。公用語は、マーシャル語及び英語です。

アメリカ法の強い影響を受け、会社法など多くの法律がアメリカのデラウェア州の法律に倣っています。マーシャル諸島の裁判所は、マーシャル諸島に適用される法律や判例がない場合、デラウェア州の判例法を参照することがあります。

マーシャル諸島は、船舶会社の登録国として有名です。NASDAQやNYSEで取引されている公開会社40社以上、世界の船舶の20%以上がマーシャル諸島に登録された会社に保有されています。

DAO法の概要

マーシャル諸島共和国では、2022年に、Decentralized Autonomous Organization Act 2022(以下「DAO法」といいます。) が制定されました。これにより、マーシャル諸島において、いわゆる「DAO」として運営するためのニーズを踏まえたLimited Liability Company(LLC)の設立が可能となりました。

DAOをLLCという法的な組織で運営するメリットはどこにあるのでしょうか。

これについては、第一に、構成員の有限責任を確保することが挙げられます。法人がなければ、DAOにおける活動が、構成員の個人の共同事業と見られ、万一DAOの活動により他者に損害を与えた時などに、構成員全員で責任を負わなくてはならないおそれがあります。法人を使ってDAO活動を行うことは、このリスクのコントロールに役に立ちます。

第二に、DAO自身が契約主体となるためです。DAOとしての法人がなければ、個人や他の会社が、代わりに契約をして、DAOはそれに依拠して活動を行う必要が生じます。それでは、契約主体になる個人や会社が権利と責任の双方を負うことになり、運営方法次第ではあるのですが、可能性としてはその契約主体次第でDAOの活動が中座してしまうリスクが残ってしまいます。

マーシャル諸島DAO法は、DAOが法人を使う場合に必要となる柔軟性や、ブロックチェーン技術の取り込みの必要性を反映しつつ、その限界も設け、バランスを図ろうとしているものと理解できます。

本稿では、公表されているDAO法の法律の原文に基づき、その特徴について概説します。

「DAO」の定義/範囲

「DAO法」を分析、理解するためには、何を「DAO」として定義または想定しているかが出発点となります。

「DAO」の世界共通・普遍的な定義はありません。むしろ、発展途上の概念であり、特に法律においては、このようなDAOを誘致したいとう政策的な視点と、色々な試みが行われるための懐の広さのバランスが必要になるところと思われます。

この点、マーシャル諸島DAO法において、「Decentralized autonomous organization」は、マーシャル諸島DAO法に従っているLLCと定義され(102(c))、すなわち、正面からの定義は避けられています。

しかしながら、マーシャル諸島DAO法は、DAOのガバナンスについて、設立証書またはLLC契約(以下「設立文書」といいます。)に記載することによって、メンバー統治とアルゴリズムの統治の双方を認めています(104(5))。特に何も記載しない場合は、メンバー統治になるとされています(同項)。

DAOのマネージメントは、メンバー当地の場合はメンバーの投票、アルゴリズム統治の場合はアルゴリズムによって行われることが原則ですが、設立文書に記載することでその他の取り扱いも認められています(108)。

設立

1人または複数のメンバーが存在するDAOの組成が可能です。設立者やメンバーがマーシャル諸島在住であることは要求されていません。ただし、マーシャル諸島で登録されたエージェントを選任する必要があります(105(1))。

DAOの目的

合法的な目的であればどのようなものでもDAOの目的とすることができ、さらにNon-Profit Entities Actで認められた目的を採用する場合には、NPOとして登録することができるとされています(105(3))。

構成員の責任

設立文書に特に記載しない限り、メンバーは、黙示的に認められる信義誠実の誓約を除き、DAOや他のメンバーに対して受託者責任(fiduciary duty)を負わないとされています(109)。すなわち、原則としてメンバーの責任を一定程度軽減する一方、設立文書による柔軟な設計を認めています。

情報開示

情報開示については、ブロックチェーン等のDistributed Ledgerで開示済みの情報については、別途開示を要しないこととされています(111)。

メンバーのKYC情報

DAOの設立者及び実質的なオーナー(beneficial owner)について、法律上正式な氏名、生年月日、住所、パスポートナンバー、その者がDAOに関して用いるウォレットアドレスを登記所に報告することが義務付けられています(112)。それ以外のメンバーの個人情報の報告を義務付ける規定は含まれていません。

スマートコントラクトの位置付け

スマートコントラクトに、法的文書としての権威(authority)を認めています(115)。ただし、設立文書とスマートコントラクトが矛盾する場合は、設立文書の内容が優先するとされています。

まとめと日本への示唆

日本でDAO法を整備するに当たって、以下の点が参考になると考えます。

アルゴリズムによるガバナンスにも適応できる内容としている点

DAO法とは、現在のニーズを汲み取る以外にも、未だ顕在化していないニーズも見越して、先進的な取り組みにも対応できるようにしておく役割があると言えるかもしれません(法律が技術にどこまでキャッチアップすべきかは難しい問題ですが、せっかくDAO法という試みを行うのであれば、弊害が限定的である限りにおいて多くの選択肢を残しておくことは良いことと考えます。)。

そうであるとすれば、アルゴリズムによるガバナンスというクリプトネイティブ的な価値観を法に取り込んでおくことは、国際的な評価を高めることに有効であるかもしれません。

カバー範囲の広さと柔軟な設計の余地

DAOの目的は合法的な目的であればよく、また、メンバーも何名でもよいとされています。また、ガバナンスや構成員の責任についても柔軟な設計が認められています。さらに、現地のエージェントを選任していれば、マーシャル諸島在住のメンバーも不要のようです。これらから、マーシャル諸島政府として、このDAOの制度が広く使われてほしいという意欲を感じます。

KYC

Beneficial ownerについての登録義務は課すことで、国際的に高まっているKYC/AMLの要求に応えていると捉えられます。

最後に

マーシャル諸島DAO法自体は、それほど詳細な規定をおいておらず、具体的なモデルの設計は実務に委ねられているように思います。この点、Midaoという組織が、半ばマーシャル諸島DAO制度を代表する組織として、設立支援サービスに加え、各所でマーシャル諸島DAOの啓蒙活動を行っていることが注目されます(例えば、Balajiのポッドキャスト等)。

そして、Midaoには、マーシャル諸島の人だけではなく、グローバルな専門家が関わっていると認識しています。日本においても、海外の専門家も加わって発信していくような形がとれれば、より発信力が増すのではないかと考えられます。

Pro-Innovation Consulting Pte. Ltd.
20 Anson Road, #11-01 Twenty Anson, Singapore 079912
プロイノベーション法律事務所
〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町8番13号天翔日本橋ビル2階
プライバシーポリシー
© Copyright Pro-Innovation Legal & Consulting Pte. Ltd. All Rights Reserved.